提言/報告書

[報告書目次]

アジア地域の安全保障と原子力平和利用

日米防衛協力ガイドラインと周辺事態法

森本 敏  (株)野村総合研究所主席研究員

新ガイドラインに基づく関係法が1999年5月に成立し、冷戦後の日米関係にとって重要な課題が一つ解決した。しかし、日米同盟が抱える問題の解決はまだ端緒についたばかりである。そこで、ガイドライン関係法にはどのような問題があり、これが日米にとっていかなる意味をもっているのかについて考えてみたい。

1. 新ガイドラインの内容と意義

(1)ガイドラインの見直しの意味と経緯

イ.日米安全保障条約の枠組みは、第5条による米国の日本防衛義務と第6条による日本の施設・区域提供が抱き合わせになって構成されている。この日米安全保障条約は日本が集団的自衛権を行使できないという枠組みの中で交渉されたのであり、そのことはこの条約の基本的与件として扱われてきた。

一方、日本の中では、日本が憲法解釈上、その領域外において米軍と共に、武力の行使に当たる活動を行うことが出来ず、また、日本は海外派兵を行えないとの解釈が広がって、武力の行使に当たらない自衛隊の活動でさえ、しばしば政治問題になってきた。米国の中では、日米安全保障条約に基づき米国が日本防衛義務を負っているのに対し、日本が同盟国でありながら領域外において米軍と共同して活動しないことについて、しばしば「安保ただのり論」という批判が起こった。そのため、日本はいわゆる「思いやり予算」という駐留米軍への経費分担を行い、また、米国から兵器システムを購入し、こうした批判をできるだけかわそうとしたが、米国内には日本が日本の有事に際してでさえ、米国の軍事活動に十分な協力と支援をしようとしないことへの不満が常に存在したことは否定できない。

他方、現実問題として、日米安保条約があるにもかかわらず、日米両国は緊急時に両国間の防衛協力の仕方について具体的な取り決めを作っていないという問題もあった。そこで、冷戦期の最も厳しい70年代後半、日米両国は主として日本有事の際、日米両国がどのような防衛協力を進めるべきかということについて一定のルールと枠組みを作った。これが1978年の旧日米防衛協力ガイドラインである。しかし、この旧ガイドラインでも日本は、領域外における米軍の活動に支援協力するための壁を乗り越えることはできなかった。とはいえ、冷戦期にこの旧ガイドラインを使用せずに終わったことは幸運であった。

ロ.日本が再び、米国の批判に直面したのが1990年夏におきた湾岸危機である。米国はこの時、日本に湾岸地域に至る輸送協力を要請してきた。しかし、日本政府はこれを行うための政治的障害を乗り越えることが出来ず、110億ドルもの資金協力によって日本の貢献を果たそうとした。

この日本の資金協力は、米国内で一定の評価を受けたものの、米国内には米国が日本などの資源確保のために多大な犠牲を払っているときでさえ、日本が何もしないことへの強い失望感を生んだ。日米同盟はこの時初めて大きな危機を迎えたと言って良い。

日本の当局者はそのことに強い危機感を抱き、国連平和協力法を通して、少なくとも日本がまず、多国籍軍型の活動に後方支援であれ乗りだそうとしたが、この法案は国会を通過せず廃案となった。そこで、湾岸危機が終わったあと、ようやくペルシャ湾に掃海艇を出し、又、国際平和協力法を通して、92年9月にはカンボジアにPKO部隊を出すという画期的な努力を行ったが、しかし、このことによって、安保条約に基づく日米共同活動の枠が広がったわけではなかった。

この問題が、日米間の重要問題となったのが1994年の北朝鮮危機発生時であった。この時、国連安保理では、北朝鮮に対する経済制裁案が真剣に討議された。一方、米国としてはこの制裁案が中国の拒否権行使によって採択されなくても、日米韓などによる独自行動をとることも検討し、日本に協力を打診してきた。しかし、日本における当時の連立政権の態度は曖昧なもので、日本の領域外において日本が米軍の活動に協力・支援することには消極的態度であった。米国は再び失望した。

ハ.そこで、1994年末から始まった日米安全保障再定義の作業の中で、日米当局者は、主として朝鮮半島情勢を念頭に置きつつ、日本が米軍の活動を支援・協力する時、日本として何ができ、又、何ができないかを明確にしておくべきだという問題意識を強くもつようになった。こうして、1996年4月に発表された日米共同宣言の中に、旧ガイドラインの見直しのための作業を明記することになったのである。

即ち、旧ガイドラインは、冷戦期の厳しい極東情勢に対応するため5条事態を中心とした米軍と自衛隊の防衛に関する協力態勢と共同対処の要領を決めたものであるが、冷戦後に起きた複雑な安全保障環境のもとで6条事態に対応する共同対処要領が必要となってきたのであり、更に、日米同盟を強化するため、日米両国間における幅広い共同対処要領の策定が必要という問題意識に基づいて策定されたものである。日米両国政府は、日米共同宣言が発出された後、96年6月にはSDC(防衛協力小委員会)を改組して、ガイドライン見直しの作業に着手した。その際、見直し作業を日米同盟に基づく広範な協力の在り方について、一般的な枠組みと方向性を示すものと位置づけたのである。

この見直し作業の結果、97年6月には、中間報告を公表し、国内議論を通して国民の理解を深めつつ、協力の程度と範囲を見極め、さらに、中国、韓国など周辺諸国及び米国に日本国内の議論を理解させつつ、最終的な検討作業を行って97年9月に最終報告を公表した。

(2)新ガイドラインの内容

イ.新ガイドラインは要するに、三つの時間軸とケースについて日米両国が行うべき防衛協力の基本的な枠組みと方向性を定めている。

第一のケースは、平素から行う協力である。この場合の協力は、主として、三つの内容を含んでいる。一つは、情報交換及び政策協議である。これは、日米両国の当局者があらゆる機会を捉え、広範なレベルと分野に関する情報交換と政策協議を行うものである。特に、国際情勢についての情報や意見交換及び防衛政策や軍事態勢についての協議を行うものである。これは、今までも日米当局者間で行ってきたが、これをいっそう緊密に行おうとするものである。

もう一つの内容は、安全保障面でのいろいろな協力を強化し、より緊密にするものである。この協力には、日米間でアジア・太平洋地域や国際社会全体の平和と安定のために行う日米協力が含まれる。例えば、日米両国がその他の国と行う安全保障対話や、防衛交流及び軍備管理・軍縮面での協力に関し、日米間が協力して取り進めようとするものである。また、日米両国がPKO活動や人道的な国際救援活動を行う際にいろいろな協力を行うことや、大規模災害が発生した場合の日米協力も含まれる。日本は、PKO活動に際し、今までも米国と現地で協力活動を進めてきたが、これをガイドラインの中で明記したことに意味がある。また、阪神大震災のような大規模災害に際し、日米両国が協力をすることについてもガイドラインの中で取り上げることとした。

もう一つの内容は、日米両国がこのような防衛協力を進めていくときの協力体制に必要な機構づくりをしたということである。このために、まず、日米共同作戦計画と日米相互協力計画を進めていくために、包括的メカニズムという日米両国政府当局者から成る協議機関を作った。

さらに、日米政府間の協議と調整を行うために、日米調整メカニズムという機構を作ることが決められた。これはおそらく、日本政府に設置され、米国側の当局者及び連絡将校が勤務して日米間の運用に関する調整活動を行うこととなろう。

ロ.第二のケースは、日本に対する武力攻撃が行われた際の日米共同対処行動を決めたものである。これは、旧ガイドラインの時にすでに大枠は決められており、新ガイドラインの内容は、これを修正したものにすぎない。

この対処行動には、日本に対する武力攻撃が差し迫っている場合と、日本に対する武力攻撃が実際に行われた場合に分類して、日米協力の内容が決められている。

前者については、例えば、日米間で情報収集や警戒監視を強化したり、日本に対する武力攻撃に対応するための準備を進めたり、あるいは事態が拡大することを抑止するための外交努力が含まれる。

後者については、実際に日本に対する武力攻撃が起こった場合の日米共同作戦要領を規定したものである。その内容は、米軍と自衛隊の共同作戦構想に基づくものであり、例えば、航空侵攻や着上陸侵攻ならびに海上交通・海域の防衛のための共同作戦が含まれる。また、ゲリラ・コマンドウ攻撃のような不正規戦に対する対応や弾道ミサイル攻撃への対応についても規定されており、この点は旧ガイドラインにはなかった内容である。

こうした日本に対する武力攻撃に際し、日米両国が行う防衛協力活動は、指揮、調整、情報活動、後方支援活動など広範な内容にわたるものである。

ハ.第三のケースは、周辺地域における事態に関する日米協力である。この周辺事態に関する協力が、新ガイドラインのもっとも大きな特徴であり、これは旧ガイドラインの中には決められていなかった内容である。

周辺事態に対する日米協力は、三つの分野に分類される。

第一の分野は、日米両国政府がそれぞれ主体的に行う活動に関する協力である。これには、(1)避難民救助(2)捜索・救助(3)非戦闘員の退避(4)船舶検査など、である。

(1)の避難民救助とは、例えば、避難民が日本の領域に流入してくる場合、これらの避難民を救援したり、輸送したり、物資を支給したりする活動や、被災地に人員・物資などを輸送したりする活動である。こうした諸活動を行うことは、日米双方がそれぞれ責任を持って実施するが、その際、日米間で協力を行うことが含まれている。

(2)の捜索・救助とは、日本の領域及び日本の領域外であるが戦闘地域ではない周辺海域において、戦闘員が遭難した場合に、これを捜索し、救助する活動である。

(3)の非戦闘員の退避とは、日本の場合、邦人の救出のための諸活動である。輸送や医療の活動が含まれる。また、米軍の家族・軍属などが日本の領域内に引き揚げてくるときに、日本が行う施設の提供、入国管理、宿泊などの協力である。

(4)の船舶検査などとは、国連安保理決議に基づいて行われる経済制裁の実効性を確保するための活動であり、船舶検査はその代表例である。

第二の分野は、米軍の活動に対する日本の支援である。これには、施設の使用及び後方地域支援(補給、輸送、整備、衛生、警備、通信など)が含まれる。この活動は、いわば、日本が米軍に一方的に行う支援協力であり、その主体は自衛隊だけでなく地方公共団体や一般国民が含まれる。

施設の使用の中には、自衛隊や日本の民間空港及び港湾の使用が含まれており、したがって、日本中のこうした施設が対象になる。また、後方地域支援については、日本の領域内における米軍への後方活動が含まれており、この点についても、自衛隊だけでなく地方公共団体や一般国民、民間企業がその対象となる。

第三の分野は、運用面における日米協力である。これには、警戒監視、機雷除去及び海域・空域の運用に関する調整が含まれる。この活動の対象は、米軍及び自衛隊である。

(3)新ガイドラインの性格とねらい

イ.ガイドラインが以上のようにして出来上がり、また、その内容が前項に記述した通りだとしても、このガイドラインが持っている最大の課題は、日本が主としてその領域外で米軍の活動をどこまで、如何なる内容の協力や支援ができるか、という点について一定の基準を示すことにあったことは明らかである。

新ガイドラインを旧ガイドラインと比較した場合、基本的な相違点は次の二つである。

第一は、旧ガイドラインがあくまで、主として日本有事に際して、日本の領域内で米軍と自衛隊が共同対処を行うための基準を示したものであるのに対し、新ガイドラインは日本有事のみならず、周辺有事に際して日本の領域の内外において日本が米軍に協力し、支援する仕組みを作ったことにある。その際、その地域とは戦闘と一線を画する地域であり、又、日本の行う活動は武力の行使に当たらない「後方地域支援」であるにせよ、日本の領域外で米軍の活動に協力し、支援する仕組みを作ったことは日米同盟の歴史の中で画期的なルールである。

そして、このことは二つのことを意味する。一つはこの面での協力は米国がかねてより日本に求めていた分野での協力であって、この新ガイドラインに示されたルールにより、日米両国がアジア・太平洋における緊急事態に際し、何が協力でき、何ができないかを一層明確にすることができたということである。従って、日米双方とも相手に期待できることと、自らが行うべきことがはっきりとしたわけであり、日米同盟の信頼性を向上するための重要なステップを踏み出したことになる。

もう一つの点は、日米両国が共同して対応出来るケースが日本有事だけでなく、周辺有事にまで広がったということであり、このことは日米安保体制がガイドラインに基づく活動を通じてアジア・太平洋における紛争予防・紛争対応の機能を果たしうるということである。これは、日米同盟がアジア・太平洋の平和と安定のために今までよりも一層広範かつ緊密な役割を果たすことができるようになったということを意味する。日本の一部に、それは日米安全保障の拡大であり、事実上、安保条約の改訂であるかのような議論があるが、これは必ずしも当たらない。日米安全保障条約の趣旨は、本来、このような性格を持っているのであり、日本が今までその活動を自己抑制していたに過ぎない。ただ、新ガイドラインが結果としてアジア・太平洋における日米同盟の役割と機能を強化したということを意味するのであれば、その指摘は正しいであろう。

第二の特色は、旧ガイドラインが米軍と自衛隊の間の対処要領を決めたものであるのに対し、新ガイドラインは日米両国のトータルな協力の枠組みを規定したものであるという点にある。日本側が協力する対象についてみれば、自衛隊だけでなく、政府各機関、地方公共団体、民間、即ち、国民の全てが対象になっている。このことは、例えば、現在、新ガイドラインに基づいて設置された「包括メカニズム」、即ち、日米間の協議機関(いわゆる2プラス2の閣僚会合、その代理会合、防衛当局者会合)の他に関係局長等会議に17省庁(文部省、文化庁などを除く日本のほとんどの省庁)が参加したことからも明らかである。

これは、新ガイドラインを履行するためには、日米両国が同盟国間の協力として国家及び国民の総力を動員して実行して行かなければならないということを意味する。このことは、従って、新ガイドラインは単に自衛隊が協力をすれば良いといった旧ガイドラインとは全く異なった政治的意味合いを有するのである。何よりも、まず、国民全体が日米同盟を維持するため、この新ガイドラインに基づく具体的な協力について、理解と支持をする必要がある。他方、そのような国民の支援と協力が憲法によって守られた個人の権利及び義務とどのような関係にあるのかを明確にしなければならない。そのように考えると、新ガイドラインは危機の対応について、日本社会の構造と日本人の精神構造に根本的な問題を提起するような内容を含んでいるのである。

ロ.新ガイドラインは、日米同盟という観点と、日本の安全保障という観点の二つの側面からこれを評価すべきである。まず、日米同盟という観点から見た場合、新ガイドラインは間違いなく日米同盟にとって一つの転換点となるものである。

即ち、新ガイドラインにより、日本が後方分野の支援であれ、米国に対し今まで以上に実質的な協力ができるようになり、日米間の同盟協力が大西洋同盟における協力のレベルに近づいたと言えよう。

米国は今後ともアジア・太平洋においてその指導力を発揮し、影響力を拡大しつづけるためには、日米同盟を確固としたものにして日本をその中にとどめつつ、日本の活力を十二分に活用することが不可欠である。

そのために、米国がこの新ガイドラインに対し持っていた期待は、日本の民間による支援協力と掃海分野における日本の協力を取り付けることであったに違いない。できうれば、日本が集団的自衛権の問題を自らの手で解決し、米国に対し一層の協力と支援をしてくれることは望ましいと考えているであろう。しかし、日本がその協力と支援を一層充実したものとするため、日本が集団的自衛権の問題を含む憲法問題を解決すべきだと考えるのであれば、それは日本の問題であるという態度である。ただ、米国としては、日本が武力行使をしてまで米国とともになって戦闘行動をするような状況は期待していないであろう。

すなわち、新ガイドラインはあくまで新ガイドラインのもとで日本が米国の活動に対し公海上を含め、今までよりも一層実質的な支援と協力が可能となるような枠組みをつくることが米国の新ガイドラインに対するねらいであった。

それでは、次に、この新ガイドラインを日本の安全保障という観点から評価するとどのようになるであろうか。

この新ガイドラインは結局のところ、日米同盟という名を借りた日本の国家危機管理のガイドラインという性格をもったものである。すなわち、新ガイドラインは日米同盟に基づく対応を軸としつつも、本来、日本が自らの手で危機を乗り切っていくための骨組みを明らかにしたものであり、その点でこのガイドラインは評価できるものである。

いずれにしても、このガイドラインは単なるガイドラインであり、日本のとるべき安全保障政策の大枠と方向性を示したものに過ぎない。このガイドラインを実行していくためには、法整備を含めた国家としての体制を整えることが不可欠となる。

そして、このガイドラインに基づいて必要な法整備や国内の体制がととのえば、日本はやっと普通の国に近づくことが出来る。この場合、普通の国とは小沢一郎氏が言う普通の国という意味では必ずしもなく、言わば、近代国家としての通常の機能と体制を整えた国という意味に過ぎない。考えてみると、日本は今まで国家の危機に際し、国家として対応すべきガイドラインさえない国家であったのである。

ハ.周辺事態についての内容は新ガイドラインの中で最も重要な、かつ緊要なものである。周辺事態とは言わば事態を説明するために使われている言葉であり、地域を示すために分類された言葉でないことは明らかである。要はその都度発生する事態が、日本の平和と安全に重要な影響を与える事態であるかどうかを日本が自発的、かつ主体的に判断を行い、それに基づいて対応すべき問題である。

もっとも、周辺事態は日本が最終的に判断すべき事態ではあるものの、この周辺事態に対し、日米協力を進めると言うことを前提とすれば、日米両国で周辺事態をどのように認識し、仮に、日米で認識が異なる場合にどのように取り扱うのかについては事前に十分な協議が必要となるであろう。一部の政治家がこの周辺事態に台湾海峡が入ると言ったり、入らないと言ったりしたが、このいずれの解釈も誤っている。周辺事態に特定の地域が含まれるかどうかという問題は個別具体的には示し得ないというのであれば、あくまで示すべきでない。たとえ朝鮮半島がこの周辺事態における主要な対象であるとしても、その起こる事態がどのようなものであり、その都度日本の国益に照らして判断すべきものである。とりわけ台湾海峡が新ガイドラインの適用外になるといった説明を行うこと自体、国益に反するものである。米軍の海外活動がある特定の海域や空域を全く適用外にして行われるなどということが現実に有りようはずもない。

ニ.周辺事態に対応するため、日米間の協力や支援の内容を個別具体的に規定したのは、新ガイドラインの大きな特色である。

特に、日本側が周辺事態に際し、米軍の活動に対して施設の使用のみならず、補給、輸送、整備、衛生などの後方地域支援を行うよう、協力項目の具体例を規定したこと、及び運用面における日米協力として警戒監視や機雷の除去について規定したことは成果である。その際、米軍の活動に対し、公海上において、輸送という後方地域支援を行う道を開いたことは、今までの日本の領域外における活動を広げたという意味で画期的な意味を持っている。

更に、民間による支援協力は、言わば、国内における日本の施設・設備(飛行場、港湾、倉庫、建物、道路、病院など)を米国の活動のため、使用させたり、収容したりすることを含んでおり、更に、日本が輸送、補給、整備、医療活動、物資や役務の提供などを通じて米国の活動を支援することを含んでいる。

このような協力の中で、米国がこの新ガイドラインに最も期待したのは、日本側の掃海活動及び日本の民間による広範な支援協力であろう。

特に、東アジア・太平洋地域における紛争事態を予想した場合、この新ガイドラインに基づいて日本が行う支援や協力のうち、補給、輸送、及び掃海の分野における協力は米国の活動に実質的な貢献をすることになるであろう。

ホ.新ガイドラインは更に重要なことを規定している。それは、この新ガイドラインに基づき、今後包括的メカニズムを通じて共同作戦計画及び相互協力計画を検討すること、並びに共通の基準と共通の実施要領を確立することである。

共同作戦計画は日本有事の場合の日米協力、また相互協力計画は極東有事における日米協力のための計画である。この二つの計画を検討するための基礎作業を通じて法整備の方向が示されることになる。

更に、法整備の結果が二つの計画の作成に反映される。つまり、二つの計画と法整備は相互に深く関連しあっている。

共通の基準や共通の実施要領は、米国がNATOにおいて設定しているNATO基準及びROE(Rule Of Engagement, 交戦規定)を日米両国間の行動基準に適応しようというものである。これが出来れば日米間の協力も後方分野に限って言えば、やっとNATO並みということになるのかも知れないが、それにしても日米両国は同盟国でありながら、このような共通の基準や実施要領さえなかったこと自体不自然であった。

もう一つ、新ガイドラインに基づいて出来上がるのが日米共同調整所である。これがどのようなものであるかについては、まだ明らかでないが、おそらく防衛庁内の然るべき場所に日米両国の当局関係者が勤務し、日米間の活動について調整作業を行うことになるのであろう。

言うまでもなく、この日米共同調整所を通じて行われる調整は日米両国が本来、有している指揮監督権とは自ら異なるものであり、調整という名目によって双方が独自に有している指揮監督権とシビリアン・コントロールの原則を損なうことのないように十分配慮される必要がある。

2. ガイドラインと周辺事態法

(1)周辺事態法の制定経緯と性格

イ.政府はガイドラインの実効性を担保するための法整備として、まず、周辺事態法にとりかかりこれを成立させた。しかし、周辺事態法は、次にくる有事法制へとつながるものになっていなければならない。この場合、有事法制とは、日本有事に際して、国家として行うべき対応についての基本的な方針と要領を規定する国内法である。その中には、国家として有事に際しての基本的な対処方針、基本計画の作成、承認、実行の手続き及び基本要領、総理大臣から国民に至るまでの責任と義務などが規定されることになるであろう。

周辺事態法案には、少なくともそれにつながる基本事項が規定されているべきであった。とりわけ、周辺事態法案の中で、周辺事態に対応すべき国家の基本方針、総理大臣の責任と権限、非常時において総理大臣が行うべき権限の強化、内閣の責任と権限、日米間の調整と統制のための権限、地方公共団体や一般国民が協力すべき場合の枠組み、その場合の実施要領や協力した国民の身分保証などがもっとはっきりとした形で規定されるべきであった。そうすれば、この法律は周辺地域に発生した事態であるとは言え、日米協力を含め、国家として緊急に対応しなければならない場合の基本的なあり方を示したものとなる。そして、それは、次にくる有事法制の基礎的な要件を示し得るのである。

即ち、周辺事態法の検討作業を行うにあたって、有事に際し、日米協力を含め国家がいかなる対応をすることが国家と国民の安全と繁栄を最も効率的に確保できるかを勘案しつつ、その際、国民の権利、義務を憲法の下でどのように規定するかに留意する必要があったのである。

ロ.ところで、新ガイドラインは条約でも協定でもない。従って、国家間の権利・義務を定めたものではない。それは日米両国が同盟国として協力すべき広範な枠組みを定めたものに過ぎない。そして、その真のねらいは、アジア・太平洋において活動する米軍に対し、日本がその憲法上の枠組み内で日本の領域外であっても、武力行使にあたらない諸活動とりわけ、後方支援活動に乗り出すことによって日米安全保障体制の信頼性を向上しようとすることにあった。

他方、ガイドラインをあくまで日米協力活動のガイドラインと位置づけ、日米両国の立法上の措置を義務付けなかったのは、このガイドラインをそのような条約上の規定にすることよって日本側がこれを国会承認事項としたくなかったからにほかならない。しかし、ガイドラインの実効性を担保するためには、米国は国家安全保障法があり実行上何の問題もないが日本側としては立法上の措置が必要であることは明白であり、従って、日本は速やかに国内法の整備を行うことが迫られたのである。

言うまでも無く日本の国内法は、そのほとんどが平時法であり、従って、このガイドラインの実効性を確保するに最も望ましい国内法とは、いわば、国家緊急事態法ともいうべきものであった。この国家緊急事態法には有事及び周辺事態並びにその恐れのある場合の準備や平常時から行うべき国家の行動規準が含まれるべきものであった。ところが、新ガイドラインができた時の国内政治情勢は、このような法体系を整備することができるような状況にはなかった。とりわけ、自・社・さの連立政権のもとで、このような法律が整備できるはずがない。そこで、順序としてまず、周辺事態に対応するための法律と有事法制とを切り離して、まず、周辺事態に対応するための法律にとりかかることとしたのである。

ハ.その際、この法体系の中に、いかなる事態への対応を盛り込み、その結果、どのような法律の形にするべきかについて、いろいろな議論が行われた。

ガイドラインには日米両国がおのおの主体的に行う活動として (1)避難民救助 (2)捜索・救助 (3)非戦闘員退避 (4)船舶検査の四分野を決めている。更に、米軍に対する日本の支援として (1)施設の使用 (2)後方地域支援 (3)警戒監視・機雷除去などの三分野を決めている。周辺事態法案には結果として最初の四分野のうち(2)捜索・救助と(4)船舶検査ならびに後の二分野のうち(2)後方地域支援という合計三つの分野の活動が盛り込まれることになった。もっとも、法案成立の最終段階でこのうち、船舶検査が法案の中から削除された。

(2)周辺事態法の草案作成と自・自連合政策合意

イ.周辺事態法の起草作業は、97年秋以降着手され、98年春に本格化して、98年4月末には閣議において承認された。この法案は、閣議承認後、直ちに国会に提出されたが、その後、趣旨説明さえ行われることなく99年1月の通常国会になって、特別委員会が設置され、同委員会において本格審議が行われた。

周辺事態法案の審議がこのように遅れた理由は、草案作成時の与党が自・さ・社連立政権であったという内政上の背景と、中国が周辺事態法に強く反対したため、江沢民訪日以前に法案審議することを政府がためらったという外交上の背景があったと考えられる。しかるに、98年8月末の北朝鮮ミサイル発射事件は、周辺事態法審議にとって追い風となり、また、同年11月の江沢民訪日が必ずしも日本側から見て成功裡に終わらなかったため対中国配慮の必要が低下したという事情もある。しかし、国会の勢力分布を見ると、周辺事態法が衆参両院で簡単に通過するようにはなっていなかったので、自民党としては98年秋に自由党との連立政権を作る工作を行い、更に、99年1月以降、参議院においては依然として自・自連立では、過半数の議席がなかったので、公明党との政策協調を模索することとなった。特に、98年12月から99年1月にかけて、自・自連立政権成立のために行われた一連の政策協議を通じて得られた安全保障政策に関する政策合意は、周辺事態法の審議を進める上で重要な役割を果たしたといえる。この自・自政策合意は、国連の平和活動参加について、国連総会あるいは安保理の決議と要請がある場合、武力行使と一体化するものでない限り、積極的に参加・協力できるという新たな国連協力へと踏み出すための枠組みを作った。即ち、この政策合意は、国連の集団安全保障について、従来、必ずしも明確でなかった分野である国連軍あるいは、多国籍軍に対する後方支援を、直接戦闘行動を行うことや戦闘地域への輸送補給を除き、可能とするものであり、その点で国連の集団安全保障に関する新たな分野について我が国が参加・協力に踏み出すためのステップを作ったと考えられる。もっとも、この政策合意は、政党間における合意であり、これを、政府の政策として担保するためには、現実に法的措置が必要であり、その法律を例えば国連平和活動法とするか、あるいは国連に対する平和活動を含めたより広範な危機対応のための法体系に組み込むかは、今後の政党間調整及び、与党政府部内における政策調整次第である。

ロ.自・自両党は政策協議を通じて周辺事態法を通常国会において採決することについて基本的な合意を作った。その際、周辺事態法案について、これを日米安保体制に基づく日米防衛協力を行うという本来目的のみに限定することとし、必要な修正を行うことについて合意した。即ち、周辺事態法案は米軍に対する後方地域支援と米軍とは限らない対象に対する捜索・救助活動からなっているが、これを米軍に対する支援協力に限定して行うことによって日米安全保障体制の実効性をよりよく確保するために修正することに合意した。即ち、捜索・救助活動についても、一般的な活動ではなく、米軍に対する支援・協力活動という大枠の中で、実施すべき活動の法的枠組みを形成するという形での修正を行うこととした。

周辺事態法にはそれ以外に、周辺事態の定義や認定、国会承認問題、武器使用問題、あるいは民間協力の内容など、いくつかの修正を行うために協議を行うことについても合意した。

この合意については、その後、公明党が参加して政策調整が行われたが、その際、船舶検査について合意がえられず、船舶検査はこの法案から削除されることになった。また、自由党の主張により周辺事態の定義について「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃にいたる恐れのある事態等」という例示的な字句が挿入されることになった。

(3)周辺事態の範囲

イ.周辺事態法の中で、最もやっかいな問題は周辺事態の定義に関するものである。同法第1条によれば、周辺事態とは「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃にいたる恐れのある事態等我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」と説明されている。この場合、周辺事態の定義に例示的な説明が行われているが、これによって周辺実態の定義が変わってはいない。この定義についてはガイドラインの中でも同様の説明が行われており、周辺事態の概念は地理的なものではなく、事態の性質に着目したものであると強調されている。問題は、このような説明が論理的に正しいものであるとしても、現実には、日本周辺におけるどこかで発生した特定の事態を周辺事態であると認定することになる。すると、それはどのような事態なのか、また、実際にどのような地域でおこる事態を想定しているのかという問題がおこることは当然である。まさか、アイルランドやコソボの事態まで周辺事態に含まれると誰も想定しないであろう。他方、朝鮮半島情勢が入ることには誰も疑わないだろう。それでは、中東・湾岸はどうか、インド洋はどうか、インドシナや南シナ海は含まれるのか、といった疑問が生じてくる。これに対し、うまく説明できないのでは周辺事態法の適応はどこまで広がるかという懸念が出る。

ロ.そこで、問題は、そもそもガイドラインの主旨とは何であったのかという問題にさかのぼる。明らかに、ガイドラインを改正した時の問題意識は、日米安全保障条約にもとづいて、アジア・太平洋の平和と安定のために活動する米軍に、後方支援を行えるようにするということであったはずである。周辺事態が地理的概念でないとしても、これを地政学的に想定した場合、日米安全保障条約第6条に規定する極東あるいは、極東周辺とどのような相関関係になるかということは、周辺事態という概念を理解する時に、最もわかりやすい判断基準となる。

他方、中国が周辺事態には台湾が含まれるのは受け入れがたいという批判し始めたために、周辺事態の解釈が日本の内政上の問題に発展したことは遺憾である。周辺事態法はあくまで、日本の国内法であり、どのように解釈するかは、日本の専管事項である。そもそもは、日米安全保障条約をめぐる議論の中で、極東及び極東周辺という定着した概念があるのに、周辺事態という概念をガイドラインに持ち込んだことに問題の発端があるのであり、今頃になって言ってみてもせんなきことではあるが、こうした新たな概念を導入したために台湾が入るとか、入らないとかいった疑念を周辺諸国にもたれるようなことになったとしか言いようがない。

周辺事態が日本の平和及び安全に重要な影響を与える事態というのであれば、それはその都度、判断されるべき問題であり、一様に地理的に明示できないことは当然であるが、台湾や朝鮮半島は言うまでもなく、北東アジアにおいて発生した重大な事態が日本の平和及び安全にとって無関係であるはずがない。

むしろ、アジア・太平洋の平和と安定のために活動する米軍に対し、必要な協力をすることが日米安全保障体制の信頼性を高めるということであれば、当然のこととして、日本はこれに対応できなければならない。この場合、台湾で起きた事態が周辺事態に入るかどうかをあらかじめ自動的に判断できないことは事柄の性格上当然であって、台湾はそこで起こる事態次第では周辺事態に入ったり、あるいは入らなかったりすることになるのである。

いずれにせよ、周辺事態の定義については、同法第1条において周辺事態に「対応して我が国が実施する措置、その実施の手続その他の必要な事項を定め、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約の効果的な運用に寄与し、我が国の平和及び安全の確保に資することを目的とする」と規定していることは、この法律上、周辺事態の定義が日米安全保障体制の中で運用されることを明らかに示すものである。

(4)周辺事態法の国会承認と認定

イ.周辺事態法によれば、まず、周辺に発生した事態に対し、我が国が必要な措置を実施すること及び対応措置についての基本計画の案について、内閣総理大臣がこれを閣議の決定を求めることとなっている。

この場合、周辺事態の認定を閣議決定によることが適当であるのかどうか、安全保障会議の機能をどう位置づけるかという問題があり、また、周辺事態の認識について、日米間においていかなる場で、どのように調整するかという点が不分明である。まず、周辺事態の認定については、それ自体が重要な決定であるので、安全保障会議の主要議題とするよう、安全保障設置法を改正するとともに、安全保障会議の決定を経て、閣議において了承するという手続きが妥当なのではないかと考えられる。

ロ.いずれにしても、このようにして、基本計画案が作成された時点で、その後の国会承認手続をどのように進めるかという点が国会における審議及び、政党間の政策協議の主要点であった。結果的には、同法で「基本計画に定められた自衛隊の部隊等が実施する後方地域支援又は後方地域捜索救助活動については、内閣総理大臣は、これらの対応措置の実施前に、これらの対応措置を実施することにつき国会の承認を得なければならない。ただし、緊急の必要がある場合には、国会の承認を得ないで当該後方地域支援又は後方捜索救助活動を実施することができる」と規定されることになった。即ち、周辺事態に自衛隊が活動する場合には、原則として国会の事前承認、緊急の場合に事後承認という規定が成立したのである。もっとも、緊急であるかどうかの判断は内閣が行うのであるから、国会の承認手続が優先することにはなっていない。

他方、現実に、周辺事態が発生する時には、予め、国際情勢の変化や周辺諸国の状況に鑑み、何らかの兆候があると思われる。従って、その場合に、情報機能・活動が強化されていると考えれば緊急事態とは余程の場合でなければありえないとも考えられる。

(5)周辺事態法と日米協力協定

イ.周辺事態法は、あくまで日本の国内法である。しかし、同時に、日米協力ガイドラインに基づく日米協力の実効性を確保するための法的枠組みである。周辺事態法の性格をあくまで、日米協力の実効性を確保するためのものとするのであれば、周辺事態法の中に、この国内法が日米安全保障条約に基づく日本の協力を行うためのものであることを明記すべきである。そうなると、捜索・救助や船舶検査について、日米安全保障体制の実効性と信頼性を確保するための活動という観点で一貫性のある内容にせざるを得ない。また、そうすると、日米協力以外の内容を持つ捜索・救助、船舶検査を法律上、どのようにして、担保していくかという問題が生じてくる。

いずれにしても、周辺事態法が日本としての安全保障活動を行うための国内法であるという要因と、日米協力を進めるための法的枠組みであるという二つの要因を、最も効率的に達成するための手順は、まず、ガイドラインに基づいて日本有事に際して日米協力のあり方を規定する共同作戦計画と、周辺事態に際して、日米協力のあり方を規定する相互協力計画の基本的枠組みを策定することである。この作業は、日米両国の当局者間ですでに開始されている。

この二つの計画が決まるのには、まだ、少し時間がかかるであろう。いずれにせよ、この計画によって、日米両国が行うべき役割分担と双方の協力の枠組みができあがる。次に、これらの計画に基づいて日米協力協定を締結することである。この協定は、いわば、緊急時における日米協力のあり方を決める基本協定であり、日米安全保障条約第6条に基づく日米地位協定に匹敵する内容をもつ。

ロ.この協定を国会で批准するために、日本が国内法として規定するべきものが、いわば、国家緊急事態法である。これは、日本有事と周辺有事ならびその恐れがある場合に、国家として対応すべきあり方を示すものである。

このような順序が望ましいとすれば、現在まで政府・与党がとった手順は、まず、周辺事態法案を作成し、これでは、カバーできないものを自衛隊法など一部改正を草案し、次いで、これに基づく日米協力を行うためのACSA(日米物品役務相互提供協定)の一部改正を行い、これらを横目で眺めつつ、共同作戦計画と相互協力計画の日米協議を進めているのである。

これでは順序が逆ではないか。周辺事態法によって担保されないような日米協力分野が、相互協力計画をつくる段階ででてきた場合に、どうするのか。

何よりも問題と思われるのは、周辺事態法に基づき、日本が米国に支援しうる内容が法律によって担当されるとしても、それをACSAの改正によって日米協力の枠組みにすることには無理がある。ACSAはもともと、物品や役務を日米両国間で平時に相互に融通する財産管理上の手続きを決めた協定である。これを、周辺事態に広げたところで、ガイドラインに基づく日米協力の内容が改正されたACSAによって全て包含されるとは思われない。特に、日本が米国に対し一方的に支援する内容の改正はACSAの相互提供という原則になじまないのである。また、ACSAは国防省所管の協定であるため、非戦斗員退避(いわゆるNEO)のように国務省が所管する活動は入らないし、捜索・救助、船舶検査なども本来は、ACSAといった物品や役務を相互に提供する協定にはなじまない。結局、日米協力協定という日米両国政府間の合意をつくるのが、本来の姿ではないのかという疑問が残るのである。

(6)周辺事態法と武器使用

イ.周辺事態法は武器の使用について、捜索・救助や後方支援の活動を命ぜられた自衛隊が武器を使用する際、当該活動の実施を命ぜられた自衛隊の自衛官は「その職務を行うに際し、自己又は自己と共に当該職務に従事する者の生命又は、身体の防護のため、やむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ、合理的に判断される限度で武器を使用することができる」旨を規定している。

この武器使用については二つの問題がある。第一は、この規定は、改正前の国際平和協力法第24条と同じ趣旨の規定になっている。即ち、この規定はあくまで、自衛隊員個人の判断によって武器を使用することとなっている。しかるに、自衛隊が部隊として活動するときに、武器使用を自衛隊員個人の判断にゆだねたのでは、武器使用に統制がとれず、かえって危険な事態や混乱を招くこともありうるので、前回の通常国会において自衛隊員の武器使用を「上官の命令による」ものとするよう国際平和協力法の改正が行なわれたところである。

ロ.しかも、国際平和協力法は武器使用があまり予想されない分野のPKO活動に参加する場合の規定である。周辺事態法に基づく活動は、周辺地域において緊急事態が発生している状況下で、いろいろな活動に従事するのであって、少なくとも改正された国際平和協力法にある武器使用ができるようになっていなければならない。特に、船舶検査活動は、相手船舶による武力行使などの抵抗が予想され、このような事態に対して活動する自衛隊が武器使用を隊員個人の判断にゆだねることとしてい同法案の趣旨は明らかに合理的ではない。輸送活動に従事する自衛艦に乗艦している自衛隊員が相手船舶の発砲に対し、「個人の判断」に基づいて武器を使用するのであれば、それはもはや、自衛艦としての機能を果たしていることにはならない。

第二は、周辺事態法は、捜索・救助と後方支援活動に従事する場合の武器使用について規定しているが、同法によればこの規定による武器の使用に際しては、刑法第36条又は第37条に該当する場合のほか、人に危害を与えてはならないこととなっている。しかし、周辺事態の様な時に、こうした後方地域支援活動こそ、最も、相手の妨害を受け易い活動であり、その際、国際法と国際慣習によって武器を使用する必要があるといわねばならないであろう。

(7)周辺事態法に基づく国民の協力

イ.新ガイドラインが旧ガイドラインと最も異なる性格を持つ点は、旧ガイドラインが米軍と自衛隊の共同活動の基準を示したものであったことに対し、新ガイドラインは日米両国の広範な協力の枠組みを規定したものであることにある。

すなわち、新ガイドラインでは自衛隊だけではなく、各省庁、地方公共団体及び一般国民の協力が必要に応じて求められている点にある。この点を法律上担保しようとしているのは周辺事態法第9条である。9条第1項は、関係行政機関の長が法令及び基本計画に従い地方公共団体の長に対しその有する権限の行使について必要な協力を求めることができることとなっている。また、一般の国民に対しては、9条2項において、関係行政機関の長が「国以外の者に対し必要な協力を依頼することができる」こととなっている。

地方公共団体の長に対しては、「協力を求める」のであるから、結局のところは行政監督に関する指導を行うことができるが、一般国民に対しては、「協力を依頼する」のであり、必ずしも強制力を有していないと解される。

しかし、それでは地方公共団体の長が従わなかったらどうするのかという問題は解決できない。また、地方公共団体や一般国民にいかなる協力が求められたり依頼されたりするのかという点については明確でなく、すべては基本計画によって決められることとなる。この基本計画は、同法第4条において、後方地域支援、捜索・救助及び各省庁が所管する活動が含まれることになり、極めて広範にわたる。これらのうち、自衛隊が行う活動については同法の別表に明示されており、それは、例えば、補給、輸送、修理、整備、医療、通信などである。これだけの内容と分野の日米協力を自衛隊が行うのに、自衛隊法の任務を改正しないのは、納得できない。やはり、これは、自衛隊法上の主任務の一つとして規定する必要があろう。

一方、地方公共団体及び一般国民に求められる協力の内容は、この範囲を超えたものになるとは思われないが、そうであれば、同法第9条の中に例えば、物品、資材や役務の提供、輸送などといった協力活動の基準が示されることが望ましいと思われる。

ロ.我が国周辺における事態に際し、地方公共団体や一般国民にどのような支援や協力を要請することになるかは、結局のところ、事態の内容次第であって、予め、法律で規定することはできないというのが政府の立場である。しかし、一般的にいえば、求められる支援や協力とは、例えば、民間の飛行場や港湾ならびにそれに付随する施設を使用すること、米軍のために物品や資材を輸送したり、補給したり、整備を行ったりすることであろう。また、場合によっては、医療・衛生面での協力を求められることもあり得る。物資や資材を提供したり、役務の提供を行うこともあり得よう。しかし、強制労働や報道管制、通信管制など国民の権利義務に関わる問題について、支援や協力を求められることはあり得ないであろうし、また、こうした支援や協力を求められても、国民は応じないであろう。それであれば、周辺事態法の中で、地方公共団体や一般国民に対する支援や協力を例示的に示すことが適当である。

地方公共団体や一般国民にとっては、その方が同法を理解しやすくなり、また、かつ、いかなる協力が求められるのが分かって、安心するのではないかと思われる。

また、一般国民がこうした協力に応じて活動を行う際の損害補償については法律に明記してあるが、そもそも、このような活動に従事した一般国民の身分保証をどうするかという問題は解決できていない。例えば、国の要請によって米軍のために輸送任務に従事する民間企業の職員は、その活動が国の要請によるものである限り、公務員に準じた身分が保証され、何らかの損失を受けた場合の補償を国から受けることになるのではないかと考えられる。

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