提言/報告書

[報告書目次]

アジア地域の安全保障と原子力平和利用

中国のエネルギー資源と原子力発電問題

平松 茂雄  杏林大学教授

1. 何故中国で原子力発電か

中国が対外向けに発刊している『北京周報』という雑誌の1984年6月19日号に、中国の著名な原子力科学者で、国務院核工業部科学技術委員会主任の姜聖階氏が「中国の原子力事業を発展させよう」という論文を寄稿している。中国の原子力発電を論じる場合かならず引用される論文である。それ故本稿も、この論文の要旨を紹介することから始めることにする。

中国の発電量は1949年の建国当時わずか43億kWh であったが、30余年を経た1993年には3514億kWh にまで増大した。しかしながら数年来の経済成長により、毎年 400億kWh~500億kWh の工業用電力が不足し、少なからぬ数の工場が毎週2日から3日操業を停止しなければならず、それによる損失だけで 700億元に上る。1人当たりの生活用電力はたった12kWh であり、中小都市や町ではしばしば停電する。農村の半数では電気が使えない。

中国は今世紀末までに工農業生産総額4倍増の計画を進めており(後述)、それを実現するには発電量の4倍増、すなわち1980年の3,600億kWhを2000年までに1兆2,000億kWhに増加することが大前提となっている。具体的には、火力発電が9,000億kWh 、水力発電が 2,000億kWh である。どちらも1980年の4倍増の過大な要求であり、不足分の1,000億kWh を原子力発電で補填しなければならない。

以上が原子力発電を緊急に発展させる理由であるが、さらに次のような中国の不均衡なエネルギー事情もある。中国の石炭資源は豊富であるが、埋蔵地域が華北に偏在し、また水力資源もきわめて潤沢であるが、西南部の険しい山岳地帯に集中している。それに対して全国工農業生産総額の半分以上を占める沿海工業地帯の電力資源は極めて貧弱で、沿海地区の需要を満たしていない。こうしたエネルギー資源の不均衡な分布状態は開発の困難性に加えて、北から南への石炭輸送あるいは西南部から東部への長距離送電という莫大な投資を必要とする問題がある。それ故エネルギーの不足している沿海工業地区での原子力発電所建設は急務である。

この論文は続いて、中国には豊富なウラン資源があり、原子力研究・生産体制がすでに整っているなど、原子力開発に必要な基本的条件が備わっていること、原子力発電で最大の問題である安全性について自信があることを論じている。

2. 中国のエネルギー需給構造の特徴

中国のエネルギー需給構造には次のような特徴がある。

  1. 歴史的にみると、1950年代に急成長に続いて、1960年代に著しい停滞がみられる。これは大躍進から文化大革命にいたる時期の経済活動の混乱によるものである。1970年代には平均7%の安定した成長を続け、1980年代に入ると平均 3.8%と成長は鈍化している。
  2. 1次エネルギー生産の構成は石炭が主体であり、1960年代以降石油の比率が増大しているが、石炭は依然として全体の70%前後を占めている。水力発電の比率も拡大しているが、比率は小さい。
  3. エネルギーの輸出入は小さく、1次エネルギー消費の構成は、生産構成とほぼ同じである。国内依存型であり、海外依存型の日本と対照的である。但し石油輸出拡大の必要から国内消費で石油から石炭への転換が進められているところから、石炭の比率がやや高くなっている。
  4. エネルギー消費の構造は工業主体であり、工業部門での消費が約70%を占めている。民生部門の比率は17.2%と小さく、とくに農村での民生用消費は数%程度にすぎない。
  5. 農村での非商業性燃料、薪、藁、枯葉、家畜の糞などの消費量が多く、標準炭換算で約2億トン、農村エネルギー消費量の約70%を占める。

以上述べたところから、中国のエネルギー需給構造は、石炭を主体とする自給自足型であると特徴付けることができ、大規模な陸上および海底の石油資源開発が実現しないかぎり、この構造は今後も長期にわたって持続すると考えてよい。石油は輸出に振り向けるとともに、国内消費では輸送機関用燃料と石油化学原料用に使用され、今後のエネルギー発展の基本方向は、石炭と水力、さらに原子力により電力供給の拡大をはかることであろう。ここに中国における原子力発電の意味がある。

3. 「工農業生産総額の四倍増」計画とエネルギー問題

先に述べたように、中国は1980年代に入ってから、「工農業生産総額の4倍増」を達成する経済長期計画を実施している。この基本構想は1982年9月の中共第12回大会で当時総書記であった胡耀邦氏により提案された。詳細は不明であるが、その基本構想は次のようになる。

  1. 今世紀末までに、工農業生産総額を1980年の4倍にし、人民の物質・文化生活を中程度の水準に引き上げる。
  2. 今世紀末までに、エネルギー総生産量、鉄鋼・セメント・化学肥料などの主要生産手段の生産量を1980年の2倍にする。(エネルギー生産の2倍増)
  3. 技術の進歩、製品の品質、加工度の向上により、現在と同量のエネルギー・原材料で2倍の生産額を達成する。(エネルギーの効率的使用による2倍増)
  4. 発電量の伸びを工業成長率に合わせる。
  5. 機械工業の主要製品の生産量を4~5倍とする。
  6. 今世紀末の人口を12億人以内に抑える。

この基本構想のなかで、エネルギー資源生産は次のようになる。

  • 石炭:1980年比2倍増の12億トン
  • 原油:1980年比2倍増の2億トン
  • 電力:1980年比4倍増の1兆2,000億kWh

これを標準炭で換算すると、今世紀末のエネルギー総生産目標は12億7,000万トンで、内訳は次の通りである。

  • 石炭:8億5,700万トン(1トン=0.714トンで換算)
  • 原油:2億8,600万トン(1トン=1.43トンで換算)
  • 電力:1億2,000万トン

これに基づくと、今世紀末のエネルギーの生産構成は石炭67%、原油22.4%であり、石炭の依存度が多少減少し、原油の依存度が少し増大するものの、1980年のエネルギー生産の構成比とあまり変わらない。中国は引き続き石炭主体のエネルギー政策をとらざるをえない。

石炭:69.4%、 原油:23.8%、 水力発電:3.8%

石炭

中国には豊富な石炭資源が埋蔵されているとみられている。

  • 確認埋蔵量:1兆18億6,500万トン
  • 採掘可能量:700億トン

年産12億トンとして、58年間生産可能である。

2000年までに12億トン増産計画の内訳は

  • 国営炭鉱:3.4億トン→4億トン
  • 他方炭鉱:2.8億トン→4億トン
  • 新炭鉱建設:4億トン

しかしながら1983年に石炭総生産量が7億1,500万トンの時、その20%に当たる1億4,000万トンで、2,650億kWh の電力を生産した。この割合で計算すると、2000年に9,000億kWhの電力を火力部門で生産するには、4億8,000万トンの石炭が必要となるという仮設がある。もしこの仮設が正しければ、石炭総生産量の40%を火力発電に使用することになる。中国の石炭生産能力は決して大きくないのである。また生活用に石炭を使用した場合、総額は約2億トンと見積もられている。

予想される問題点は、

  1. エネルギー資源開発に必要な資金調達
    第6次5か年計画の基本建設投資額のなかで、エネルギー関係は25.5 %
  2. エネルギー資源の賦存状態が偏在している。
    石炭資源の60%は山西、内蒙古の華北、水力資源は西南部、中南部に集中しているところから、輸送のための投資(鉄道、送電網の建設)が必要。
  3. 石炭消費から生ずる環境汚染の増大

石油

1970年代後半期、中国の石油生産はは石油を輸出する戦略を立てるほどであったが、期待したほどの石油資源の開発が進まなかったことに加えて、中国の経済成長が石油の需要を増大させたこともあって、1993年頃から石油輸入国に転化した。今後経済成長とともに、中国の石油需要は増加の一途を辿ると推定される。

水力

公害問題で石炭による発電が好ましくない、石油の不足で発電が望ましくないとなると、最も望ましいものは水力発電である。公害は少ないし、中国には無尽蔵といつてもよい位豊富な水力資源がある。揚子江(長江)、黄河、黒龍江(アムール河)をはじめとして、中国には世界でも有数の大きな河川がいくつも流れている。中国の主要な河川はその長さ、流域面積、流水量において、日本の河川と比較できない位巨大である。これを電力に換算すると、6億7,600万kWhであり、日本の357万kWhと比較にならない位大きい。

しかし資源が存在することと、実際にそれを開発し利用することとは別の問題である。中国の水力資源の約70%は、工業中心地帯から遠く離れた険しい山岳地帯の西南地区やチベットにあり、事実上その利用は不可能である。その他の地区にしても、河川を発電に利用するには、二つの重大な障害を克服しなければならない。

一つは、降水量の偏差と森林の欠如によって生じる水位の激変であり、これを克服するには、何段もの貯水池を設けて河川の流水量を調節しなければならない。中国大陸の降水量は季節および年によって偏差が大きく、しかも多くの山が禿げ山であるため、森林の保水作用がなく、河川の流水量が最大と最小で数百倍も違い、旱魃と水害が頻発する。

もう一つの問題は沈泥の問題である。河川が運ぶ土砂のため、発電のためのダムを建設しても、たちまちにして泥で埋まってしまう。あるいは建設できても、機械が破壊されてしまう。わが国ではダムの生命は100年といわれているが、中国では20年~30年で土砂で埋まってしまう。

水力発電可能な地域と電力消費地が隣接していない地域が多い。発電しても長距離送電網架設しなくてはならず、それに巨額の資金が必要となる。また長距離送電による損失(送電ロス)も6~8%と大きい。大型水力発電所は、多くの地域の電力需要を満たすためと、コストを下げることにあるが、送電設備が充実していなければ、電力を効率的に供給することはできない。

原子力

中国には、1,500万kWh の設備を30年間稼働できるウラン埋蔵量が確認されている。

1980年代初頭以来2つの原子力発電所の建設に全力が投入された。一つは淅江省秦山原子力発電所(加圧水型原子炉、出力30万kW)で、中国が自力で設計・建設し、1991年12月15日発電試験に成功、1994年4月1日商業運転に入った。これにより上海市、淅江省、江蘇省、安徽省を含む華東地区に年間15億kWh の電力を送ることが可能となる。第8次5ヵ年計画(1991~95年)の重点プロジェクトとして、2000年の完成・発電開始を目指して出力60万kWの発電機を2基建設する第2期工事が開始されている。 もう一つは、広東原発投資有限公司と香港原発投資有限公司が共同で広東省に建設した大亜湾原子力発電所(加圧水型原子炉、出力90万kW2基)で、1993年8月に1号炉が試験発電を開始した。1994年2月6日商業発電が始められた。2号炉は1994年6月に全工事が完成し、5月6日には商業運転に入った。

中国では、さらに淅江省、江西省、山東省、広東省、福建省、江蘇省、遼寧省、安徽省、湖南省、海南省、上海市などで原子力発電所の建設を計画しており、そのうち遼寧省の原子力発電にはロシア、福建省には台湾、海南省には外資導入が計画されているといわれている。中国で原子力発電に力が投入されている背景には、中国の逼迫したエネルギー事情および輸送事情がある。中国経済が急速度の成長を遂げればそれだけ、エネルギーと輸送は逼迫する。そのため中国では原子力発電の役割が高まっている。但し最大の問題は安全の問題である。

結びに代えて

中国は今後も経済成長を続けると考えられ、それとともに国民生活の向上により、工業用エネルギーばかりでなく、民用エネルギーの増大も不可避である。世界で第2位の巨大な面積、世界人口の4分の1を占める巨大な人口を保有する中国がこのまま成長を続ければ、世界の資源は枯渇し、公害を撒き散らすことは間違いない。いたずらに大都市集中、大型・近代的企業重点型の開発ではなく、地域の特性を生かした小都市分散・地域に適合した産業型の開発が必要である。地方における小型の水力発電所、地熱、風力、潮力などを利用した発電、民用燃料として非商業性燃料の利用など、地域に適したエネルギー政策による問題の解決が必要である。中国では最近「経済改革・対外開放」の見直しとともに、「百万都市」を200建設するか、それとも「小都市(城鎮)」を多数建設するという提案がなされている。公害をださない、現地に適した開発が望ましい。

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