提言/報告書

原子炉級プルトニウムと兵器級プルトニウム
調査報告書

2001年5月
社団法人 原子燃料政策研究会

本調査にあたって

「原子力発電所から取り出される使用済燃料中のプルトニウムで核兵器が作れるか?」とは、以前からよく聞かれることであるが、質問する側も問われる側もお互いに核兵器のことは何も分からない同士である。核兵器を作った人でない限りは、「できる」「できない」と明確に応えられる人などいない。

核分裂現象を発見したオットー・ハーン、世界最初の原子炉を作ったエンリコ・フェルミなど多くの科学者が、原子力のその計り知れないエネルギーの恵みを人類にもたらすために大きな貢献を行った。しかし不幸にして第二次世界大戦が政治家をしてこの新しいエネルギーを大量殺戮兵器へと変貌させた。大戦後、この核分裂エネルギーは原子力発電という形で具現化され、エネルギーの安定供給の一助となっているばかりか、地球温暖化対策の最も優れたエネルギー源として今日に至っている。

原子力の平和利用は、化石燃料に比べ100万倍のエネルギー利用効率を実現できる革新的な技術であるが、それもプルトニウムの利用無くしては70年程度しか利用できない。ブッシュ政権が今年5月に今後の米国のエネルギー問題、電力問題、地球環境問題に対処するために、原子力発電所の積極的な建設を発表したが、米国が今までのようにプルトニウムを利用することなく、ウランを使い捨てすると、その70年もさらに短くなってしまう。

(社)原子燃料政策研究会は、原子力の膨大なエネルギーを有効利用するための原子燃料サイクルの必要性を多くの人に理解していただくために設立された。プルトニウムの利用無くしては革新的技術である原子力の本来の利点が利用できない。そのため、原子力発電所(軽水炉)の使用済燃料から抽出されたプルトニウムで本当に核兵器が作れるのか作れないのか、それを明確にしたいと以前から考えていた。

わが国は非核兵器国であり、原子炉級プルトニウムにより核兵器が製造できるかどうかを具体的に検証することは不可能である。そこで、米国で発表された技術的資料や関係者との意見交換などをもとに、兵器級プルトニウムと原子炉級プルトニウムの組成の比較、およびその技術的課題を洗い出すことにより、原子炉級プルトニウムによって、「実用可能な兵器」(単なる核爆発装置ではなく)が作れるかどうかの調査を行うこととし、その調査を、(財)電力経済研究所(理事長:今井隆吉氏)に委託した。

この報告書がその結果である。

2001年5月
社団法人 原子燃料政策研究会

1. はじめに

この研究は、(社)原子燃料政策研究会の委託により、2000年度を通じて(財)電力経済研究所が行ったものである。研究のテーマ自身は広く知られたものであり、最近になって機密解除の指定になった米国の文献も多い事から、インターネットを通じ、あるいは出版元に直接問い合わせて文献を入手した。特にアメリカIBMのRichard Garwin氏と筆者は、以前から本問題について(社)原子燃料政策研究会の機関誌「Plutonium」紙上での公開論争を続けており、この報告の取りまとめに当たっては2001年2月にニューヨーク市での再度の面談を含め、文献の入手など随分お世話になった。従来、何年かにわたってこの問題について話し合ったアメリカの物理学者としては、Glenn T. Seaborg、Harold Agnew、William Panovsky、Mike May、John Holdren、Victor Gilinsky等、多数にわたることを付記しておく。但し最も詳しく内容に立ち入って議論をし、文書や資料の手交を受けたのはGarwin氏である。

報告の主題が、核兵器の具体的構造と機能に関わるものであるから、この報告書では全体の概要を述べるに止め、核兵器設計の詳細にわたる内容については、主要参考文献のリストを添付するにとどめた。リストに見られるように、Richard Garwin氏の他、ハーバード大学John Holdren教授と筆者の往復書簡が参考文献としてあげられている。技術的詳細にわたる部分も議論の展開に必要な部分はデータを含めて、特に「3.技術上の解明」に引用されているので、念のため申し添える。「4.Discussion」は、アメリカの主張する論点が結局は科学的な「証明」や勿論「説明」もなしに、原子炉級プルトニウムで核爆発が可能であるとの立場を一本調子に主張し、それに基づいて使用済核燃料の再処理、プルトニウムの抽出、その燃料利用などを世界に向かって「禁止しよう」とするのは、「世界の警官」らしい思い上がりでしかなく、その立場を受け入れる事は出来ない。むしろアメリカは、「核不拡散」の名のもとに自国の核政策が世界の正義を代表するかのような思い上がりについて反省する事が必要である。同時に我が国としても、プルトニウム利用を将来のエネルギー政策の主要な一環とするためには、広義の安全保障の枠の中での「核政策」をもっと自由闊達な立場から規定し、アメリカに対しても単なる感情論と気分的な論議以上のものを挑んで行く気概が必要であろう。

このことは、この報告書の主題が実際には科学、技術というよりは、核保有の立場、そのものの分析となっている事を意味している。

なお、この報告書の作成に当たって、日本原子力研究所の向山武彦氏、黒井英雄氏両氏から関連論文の読み方を含めて大変お世話になったことを付記して感謝する。勿論、報告書の中身に関する責任一切は筆者個人にある。

2. 全体像

原子炉級プルトニウムで核兵器が作れるかどうかについて、いずれもアメリカ政府専門家の見解と言えるであろうもの2つを以下に引用する。

米国科学アカデミー・国際安全保障と軍備管理委員会(CISAC)1994 Management and Disposition of Excess Weapons Plutonium:

プルトニウム・アイソトープの殆ど全ての組み合わせが、核兵器製造の目的に使用が可能である。但し、全ての組み合わせが同様に便利であり有効である訳では無い。もっとも通常のアイソトープPu-239はウランの最もありふれたアイソトープU-238が中性子を吸収し、直ちにプルトニウムに崩壊する事で得られる。それは核兵器の製造に最も有用なプルトニウム・アイソトープであり、原子炉のあらゆる運転を通じて生産される。

原子炉内の燃料がより長い期間中性子の照射に晒されると、プルトニウム・アイソトープの一部が更に中性子を吸収して、Pu-240、Pu-241等々の、より高次なアイソトープに転換する。Pu-238は、U-235を起点とする中性子吸収と放射崩壊のチェインから生まれてくる。核兵器製造に当たっては、Pu-239の比較的純粋な組成が選ばれるため、核兵器用プルトニウム生産のために原子炉を運転する時には、燃料棒は比較的短期間の照射(低burn-up)後に原子炉から取り出され、プルトニウムが分離される。典型的な兵器用プルトニウムは、Pu-239が約93%である。このような短期照射は出力の経済性が悪い。発電用やその他に出力を目的とする原子炉の場合であると、燃料はより長い期間原子炉内に置かれ、これによってより高次のアイソトープをより多く含むプルトニウム(原子炉級プルトニウム)が得られる。

原子炉級プルトニウムの利用は、幾つかの理由から爆弾の設計を複雑にする。第1に重要な点は、Pu-240の即時分裂(spontaneous fission)が大きく、恒に多量のバックグラウンドの中性子(background neutron)を持つ事である。第2に、Pu-238は比較的早い速度で崩壊し、当該物質の発熱量を高める。第3に、アメリシウム-241がPu-241から半減期14年で発生して原子炉級プルトニウムの中に蓄積し、強いガンマ線を発生し、当該物質を取り扱う人員を高度の放射線照射に晒す事になる。

プルトニウムを利用した核爆発装置では、プルトニウム・コアは当初、核分裂の連鎖反応を維持出来ない、つまり臨界未満である。プルトニウムを通常の密度以上に圧縮するためには高性能火薬が用いられ、これによって核分裂で発生する中性子が他の原子と衝突して核分裂を起こすチャンスが増える。兵器級プルトニウムを使用し、良く設計された装置であれば、中性子のパルスがこの連鎖反応を引き起こす最適な瞬間に開始される。但し、Pu-240の即時分裂から発生するバックグラウンドの中性子(background neutron)が、連鎖反応を最適条件より早く引き起こす可能性がある。原子炉級プルトニウムでは、そのような早期発生のチャンスが非常に大きい。早期発生は、エネルギーを解放する連鎖反応が完成する以前に装置を爆発させ、爆発効果を設計値より大幅に引き下げる。計算によれば、核物質が初めて連鎖反応維持可能な大きさまで圧縮された時点、つまり設計上最悪の時点で早期発生が起きた場合でも、長崎型の比較的単純な装置で1ないし数キロトン(kt:TNT火薬1000トンに相当する爆発力)程度の爆発力になる筈である。このような爆発力は「fizzle yield」と呼ばれるが、1ktの爆弾は、破壊力の半径が広島爆弾の3分の1程度に及び、潜在的に恐るべき爆発である。厄介なアイソトープの比率が如何に高くても、爆発力はそれ以上低下しない。より高度の設計技術を適用すれば、原子炉級プルトニウムでもより高度の破壊力を持つものが生産可能である。

原子炉級プルトニウムの第2の問題であるPu-238、Pu-240の発熱については、装置の熱処理に注意深く当たらねばならない。たとえば、プルトニウムの熱を周辺の火薬部分を通じて外部に導く装置、或いは爆発が必要になる数分前まで装置の最終組立てを待つ等が含まれる。

Am-241の放射線に対処するには、原子炉級プルトニウムから爆弾を製造、或いは取り扱うに当たって遮蔽その他放射線防護が必要であるが、いずれも不可能なわけではない。

要するに潜在的核拡散の立場からすれば、原子炉級プルトニウムを使って簡単な設計で1ないし数キロトン(kt)の爆発力を、より進歩した設計によれば更に大きな爆発力を得ることが可能である。使用済核燃料から分離されたプルトニウムは、核兵器級、原子炉級に関わらず、重大な安全保障上のリスクを意味する。

議会技術評価局(Office of Technology Management)1994

原子炉内で生産されたプルトニウムは、燃料が原子炉から除去されるまで中性子の照射を浴び続ける。その結果、Pu-239以外にPu-238、240、241、242など、他のプルトニウム・アイソトープが蓄積される。分子数の偶数番のものは奇数番のものよりも自発核分裂(spontaneous fission)の可能性が高く、従って中性子兵器としては好ましくない性質を示す。現在の米国の規定では、原子炉級プルトニウムは少なくとも20%の偶数番(非核分裂)のアイソトープを含み、他方、兵器級は6%またはそれ以下である。Pu-239以外のプルトニウム・アイソトープは、より放射性が高く、より多くの即発中性子(spontaneous neutrons)を発生するので、プルトニウム兵器の設計をより困難にする(Pu-238の濃度が高いところでは実質的に設計は不可能である)。

問題には少なくとも二面性がある。爆弾の性能という点からすると、240または242が多すぎると、即発中性子が連鎖反応を早く始めてしまい、爆発力を大幅に削減する。第2に原子炉級プルトニウムは、兵器級のそれに比べ、単位質量あたり6ないし10倍の熱を発生する。IAEA査察の規定有意量(significant quantity)8kgの原子炉級プルトニウムは、優に100ワット以上の熱を発生する。

しかしながら原子炉級プルトニウムの臨界量は、兵器級に比べて僅かに25%多いだけであり、原子炉級プルトニウムを原料とする核爆発装置を設計し、使用することは可能である。非核分裂性プルトニウム(240、242)が50%を超える物質を、高燃焼度の軽水炉燃料或いはMOX燃料(ウランとプルトニウムの混合燃料)から分離し、キロトン級の爆破圧力を持つ装置を作る事が可能である。

3. 技術的な解明

アメリカ政府、政府を屡々代表する人々の見解は、上記の2つの文章にほぼ全面的に代表されている。更に言えば、これらを含めこの分野の見解は殆ど全部が「J. Carson Mark:Explosive Properties of Reactor Grade Plutonium」の引用である。Mark論文は、1945年の最初の原爆実験(Trinity)に先だって、オッペンハイマーがグローブスに宛てて、装置の爆発力が設計値である20ktに満たない確率を予測した手紙を根拠に、ロスアラモスのSerberによる数学モデルを拠り所として「簡単化した核兵器の数学モデル」の計算結果を示したもので、後にFrank von Hippel等が数学そのものを解説している(いずれも添付「参考文献リスト」所載)。

このほかに、1962年にアメリカが原子炉級プルトニウム(英国産のプルトニウムを使ったといわれる)を使って核爆発装置を作り、それが所期どおりに作動したと言われている。それ以外の詳細はまったく明らかにされていないが、著者は1976年にワシントンで、当時の軍備管理軍縮局(ACDA)にただ一人招かれ、Lawrence Livermore研究所のRobert W. SeldenからReactor Plutonium and Nuclear Explosivesという文書を手渡され、原子炉級プルトニウムで爆発装置を作って核爆発を行った件について説明を受けたことがある。

アイソトープの組成,核爆発の大きさ,初期の爆発力を達成したかどうかなどについては一切返事が無く,当時の筆者には勿論、Carson Markの論文の知識など無かったので、アメリカがプルトニウム問題に執着している強い印象を受けたに止まった覚えがある。逆に言えば、筆者が承知している限りでは、アメリカは軽水炉で造られたプルトニウムで核爆発装置を作り、それを爆発させ、結果を測定したという経験は持っていない。Markの論文も、von Hippelの解説も、実際の核爆発装置との関係が不明な、簡単化した数学モデルで、オッペンハイマーの1945年の計算を説明した以外の何物でもない。

以下にCarson Mark論文の主要点の図表、並びに融合反応を中性子源とした場合の図を掲げる。

図1:燃料の燃焼度とプルトニウム・アイソトープ組成

表1:各種プルトニウムのアイソトープ組成

Grade Isotope
Pu-238 Pu-239 Pu-240 Pu-241(a) Pu-242
Super-grade .98 .02
Weapons-grade(b) .00012 .938 .058 .0035 .00022
Reactor-grade(c) .013 .603 .243 .091 .050
MOX-grade(d) .019 .404 .321 .178 .078
FBR blanket(e) .96 .04
  1. Pu-241 plus Am-241.
  2. N. J. Micholas, K. L. Coop and R. J. Estep, Capability and Limitation Study of DDT Passive-Active Neutron Waste Assay Instrument (Los Alamos National Laboratory, LA-12237-MS, 1992).
  3. Plutonium recovered from low-enriched uranium pressurized-water reactor fuel that has released 33 megawatt-days/kg fission energy and has been stored for ten years prior to reprocessing (Plutonium Fuel: An Assessment (Paris:OECD/NEA, 1989) Table 12A).
  4. Plutonium recovered from 3.64% fissile plutonium MOX fuel produced from reactor-grade plutonium and which has released 33 MWd/kg fission energy and has been stored for ten years prior to reprocessing (Plutonium Fuel: An Assessment(Paris:OECD/NEA, 1989) Table 12A).
  5. FBR=Fast-neutron plutonium Breeder Reactor

表2:プルトニウム・アイソトープの性質

Isotope Half-life(a) Bare critical mass Spontaneous
fission neutrons
Decay heat
years kg, Alpha-phase (gm-sec)-1 watts kg-1
Pu-238 87.7 10 2.6x103 560
Pu-239 24,100 10 22x10-3 1.9
Pu-240 6,560 40 0.91x103 6.8
Pu-241 14.4 10 49x10-3 4.2
Pu-242 376,000 100 1.7x103 0.1
Am-241 430 100 1.2 114
  1. By Alpha-decay, except Pu-241, which is by Beta-decay to Am-241.

表3:Trinity実験装置で中性子源を大きくした場合の爆発力の確率

例えば中性子源が30倍になったとして、Pu-240がそれだけ余分に含まれていたとして、設計値20ktを達成する確率は2%だが、1ktの爆発力を達成する確率は55%もある事になる。

Neutron source
(multiple of Trinity)
Yield
Nominal
(20 kilotons)
above 5 kt above 1 kt fizzle to 1 kt
Trinity .88 .94 .98 .02
10x .28 .54 .82 .18
20x .08 .29 .67 .33
30x .02 .16 .55 .45
40x .006 .08 .45 .55

表4:表3と同じ条件に爆圧(implosion)の速度が2倍になったとする

上記と同じ条件で(Pu-240の割合が30倍)爆圧の速度が倍になれば、1ktの爆発力達成の確率は74%に増大する。

Neutron source
(multiple of Trinity)
Yield
Nominal
(20 kilotons)
above 5 kt above 1 kt fizzle to 1 kt
Trinity .94 .97 .99 .01
10x .54 .74 .90 .10
20x .28 .54 .82 .18
30x .16 .40 .74 .26
40x .08 .30 .67 .33

表5:各種グレードのプルトニウムの発熱量

Grade Spontaneous fission neutrons
(gm-sec)-1
Decay heat watts kg-1
Super-grade 20 2.0
Weapons-grade 66 2.3
Reactor-grade 360 10.5
MOX-grade 570 13.7

図2:異なったグレードのプルトニウムによる設計目標値の達成率

図3:D-T融合反応を中性子源としたBoostingによるプルトニウム爆弾

爆圧の瞬間にboosterが無限の中性子を供給するので、原子炉級、兵器級の差はなくなるという説明。

図4:アメリカ最初の水爆(Mikeの略図)

Primaryのプルトニウム爆弾のエネルギーにより、radiation channelがプラズマ状態になる。

4. Discussion

原子炉級プルトニウムで核兵器が作れるというアメリカの主張を、もっと具体的に探ろうと思って随分努力をした結果が、上記「3.技術的な解明」で記した程度で、それ以上に得るところはなかった。J. Carson Markの短い論文が広く引用されている事は前述の通りであるが、その内容はというと、引用した幾つかの表と図による簡単化した算術モデル以上のものは殆ど無いのが実体である。Markの論文自体が、オッペンハイマーの設計爆発力達成の確率を説明するというスタイルであり、実質的な技術情報としては、Robert Serberが1943年にロスアラモスで行った爆発所要時間と達成爆発力の相互間の大雑把な数学的関係だけであり、3章の表3と表4に示した様に、Trinity原爆の設計爆発力(20kt)、5kt、1kt、fizzle(0.5kt)の4段階について、それぞれの達成確率をオッペンハイマー自身の計算から逆算するという単純な問題に置き換えてしまった。Mark自身が、この論文の主旨が表3と表4を計算する事で、Pu-240による中性子供給が大きくともfizzle yield(理論上の最小達成爆発力)以上の核爆発が、場合によっては50%以上の確率で達成出来る事を論証する事であって、核兵器設計の理論的考察ではないと説明している。逆に言うとMarkの論文は、算術的な検証であって技術の証明ではない。

要するに、Markの論文は討論のためのテクニックであって、科学者が核兵器技術の内容を科学的に説明する為の手段ではない。このことは論文上の諸点について、或いは1962年の原子炉級プルトニウムによる核実験について、上記以上の情報を得ることは、今回私と話をしたGarwin、Holdrenの両氏を始め、「核兵器の技術情報を既に公開になっている以上に提供することは、アメリカ原子力法の違反になる」のでという理由で、拒否している事からも明らかである。

前記2つのアメリカ科学アカデミーの報告書が、実質的にCarson Markの論文の繰り返しになっている事も、これが原子力法で許容されている限界であることを示している。この点について個々のアメリカの科学者を非難するのが妥当だとは考えられない。

むしろ問題とすべきは、アメリカという国が核不拡散のかけ声の下に上記の原子炉級プルトニウムの議論を「正義と真理」に昇格させ、他の国々に対して核燃料の再処理とプルトニウム抽出を禁止させようとしている事である。表立ってプルトニウム利用を核拡散であると位置付けたのは、1977年のカーター政権の時以来であるが、この時の交渉で筆者は、わが国の立場を「エネルギー安全保障を護る為である」と強調した覚えがある。科学と外交の中に、突然一方的な「正義」が登場して立場が強調されると、あまり物事が円滑に働かなくなって来るのが常識である。

核不拡散条約が不平等条約であることは初めから明らかであり、1970年代の軍縮、軍備管理の実体の中ではやむを得ない事態であった。だからと言って、米・ソが(ましてや英、仏、中が)核の正義を代表し、NPT第6条の義務を十分に満足しないで済ませる理由には全くならないのである。それぞれ数万発の核兵器を保有し、10万人規模の核兵器産業を抱えていた米ソが、「ならず者の国」に於ける核兵器の秘密開発に対して、「核不拡散」の名の下に世界の警察官として接する事自体に何らの矛盾を感じず、反省もしないとしたら,人類のモラルにとってはその方が大問題である。核兵器の廃絶が一朝一夕に成立出来る訳ではないとしても、米ソの世論の中に核独占に関する反省や反発が全く見られないという事実は極めて遺憾である。この点になると、筆者の友人でもあるアメリカの核兵器科学者、核不拡散を強調する安全保障の専門家に対しても反省を要望せざるを得ない。同じ事は、日本国内の一部の核不拡散論者に対しても注意を喚起すべき点であろう。

問題が矛盾に満ちている事は、今更指摘するまでもないであろう。上記のような議論の結果として、アメリカが核兵器の製造技術を具体的に公開すれば筆者の知的好奇心は大いに満足されるであろうが、核拡散の危険は一層増大する事になる。

原子炉級プルトニウムで核爆発装置が作れるかどうかという点自体に関しては、それほど問題があるとは思えない。むしろTrinityが設計された頃の中性子源(ポロニウム・ベリリウム等)は半減期が短い事、取り扱いが面倒であること等によって、早くから二重水素・三重水素の核融合による「ブースター」にとって代わられており、D-T反応主体の核分裂primary(3章 Figure 12 等参照)であれば、原子炉級プルトニウムでも十分役に立つ筈である。むしろ問題は、2章で指摘した様なPu-238、240、241等に関する多くの技術的問題点にも関わらず、発熱体であり、放射線源であり、爆発力が不確かで、技術的に不安定で信頼が置けない原子炉級プルトニウムの核兵器を、敢えて製造し、保有するメリットを誰が認めるかという点である。インド、パキスタン、或いは北朝鮮(DPRK)ですら核兵器には兵器級プルトニウム或いは高濃縮ウランを開発している。原子炉級プルトニウムで核爆発装置を作る以外に手段のない国、或いは集団にとっては、この核爆発装置の作成は技術的に難しく、技術的に可能な国にとっては、兵器としての信頼度に欠けるというのが実体であろう。つまり「作れるかどうか」ではなくて「作る意味があるかどうか」の問題であり、答えは「ノー」である。

今回の調査を行って見て筆者自身反省したのは、原子炉級プルトニウムで核兵器を作る件については、頭から「不可能である、無意味である」としてそれ以上の検討を怠っていた点である。このことは筆者自身に限らず、我が国でのプルトニウム論議に一般に欠けていると言えるのではあるまいか。我が国は、アメリカが核不拡散に関して実質的に甚だ傲慢であるという事も、友人としてもっと指摘すべきであり、核兵器の設計という科学上の問題の論議に世界的に「蓋をしている」現状について、もっと意識を高めるべきであろう。その意味においても、今回の調査の委託を受けた事の意味は極めて大きかった。(社)原子燃料政策研究会の判断に対して、改めて感謝の意を表明する次第である。

〔主要参考文献〕

  • "Plutonium," Nuclear Issues Briefing Paper 18, February 1999, Appendix November 1999
  • J. Carson Mark, "Explosive Properties of Reactor-Grade Plutonium," Science and Global Security, 1993, Volume 4, pp.111-128 (Director, Theoretical Division, Los Alamos National Laboratory, 1947-1972)
  • Robert Serber, "Introduction Courses" given in April 1943 in connection with the starting of Los Alamos Project and printed in the Los Alamos Primer, unclassified in 1963
  • Committee on International Security and Arms Control, National Academy of Sciences, "Management and Disposition of Excess Weapons Plutonium," National Academy Press, Washington D.C. 1994
  • Richard L. Garwin, IBM Fellow Emeritus, "Letter to Ryukichi Imai" Via E-Mail, November 9, 2000
  • "Nuclear Weapons Frequently Asked Questions" Version 2.24, February 20, 1999
    • Section 1.0 Types of Nuclear Weapons
    • Section 2.0 Introduction to Nuclear Weapon Physics and Design
    • Section 4.0 Engineering and Design of Nuclear Weapons
  • Richard L. Garwin, "Reactor-Grade Plutonium Can be Used to Make Powerful and Reliable Nuclear Weapons: Separated plutonium in the fuel cycle must be protected as if it were nuclear weapons." August 1998
  • Richard L. Garwin, "Maintaining Nuclear Weapons Safe and Reliable Under a CTBT" What Types of Weapons Can Be Developed Without Nuclear Explosions?" May 31, 2000
  • John P. Holdren and Ryukichi Imai, "Letters Exchanged December 2000"
  • Andre Gsponer and Jean-Pierre Hurni, Technical Report "Fourth Generation Nuclear Weapons," International Network of Engineers and Scientists Against Proliferation, Seventh edition, September 2000