「プルトニウム」イコール核兵器という
素朴な論理はもう止めよう

冥王星の名前に因んで命名された原子番号94番の「プルトニウム」には、238、239、240、241、242そして244と、6種の同位体、即ち6兄弟姉妹が存在する。このうち最も有名なのは長崎の原爆に使われ、現在でも核兵器に多く使われているプルトニウム239である。 原子力発電所の原子炉の中で、核分裂しないウラン238が、ウラン235の核分裂により放出された中性子を吸収し、ウラン239、ネプツニウム239と変化してプルトニウム239となる。このプルトニウム239がまた原子炉の中で核分裂し熱を出し、発電所の発生電力の3割を生み出している。もちろん原子炉の中では、プルトニウム239のみが生成されるのではなく、同時に238、240、241、242という兄弟姉妹プルトニウムも自動的に作られ、ウラン燃料の燃焼度合いが進ほどに、それら兄弟姉妹の割合が増えていく。

プルトニウム239以外にも利用されているものには、プルトニウム238がある。太陽の光が殆ど届かない宇宙空間では、探査衛星の電池の燃料としてこのプルトニウム238が使われている。また米国では、高性能のリチウム電池が開発されるまで一時的に心臓ペースメーカーの電源としてプルトニウム238による電池が実用化され、重要な役割を担っていた。

原子炉内でウラン燃料から生まれたプルトニウム達は、それぞれを単体で分離することは技術的に困難であるため、プルトニウム一家として集合体で扱うことしか出来ない。プルトニウム239の比率を多くする、即ち核兵器用のプルトニウムを生産するには、発電のために4年間も原子炉の中で燃やされた燃料から抽出するのではなく、兵器級のプルトニウムを専門に生産するための小型のウラン燃焼炉が必要となる。核兵器保有国はみな、その様な軍事用のプルトニウム生産炉を保有している。

2015年11月に長崎で開催された第61回パグウォッシュ会議世界大会において、一部の核軍縮・核廃絶専門家から、軽水炉の使用済燃料中のプルトニウムについて懸念が表明された。また先だって、2015年10月20日にニューヨーク国連本部で開催された国連総会の第1委員会で、中国の軍縮大使が演説し、わが国の軽水型原子力発電所で燃やした後の使用済燃料に含まれるプルトニウムの保有について、懸念が表明された。さらに、今年3月17日には、米国国務次官補が上院外交委員会の公聴会において、わが国の原子力発電所(軽水炉)の使用済燃料から再処理して取り出すプルトニウムに懸念を示した。核軍縮や核廃絶を議論する専門家や、250発もの核兵器を保有するNPTで認められている核兵器保有国の軍縮大使、大気中、海中、地中で1,032回もの核実験を行い、ウランやプルトニウムの物性を知り尽くしている国の政府高官から、今回に限ったことではないが、改めてのわが国に対する懸念の表明である。核兵器、国防の専門家といえども「原子炉級プルトニウム」の特性を理解していないのか、あるいは政治的な発言なのかは不明であるが、専門家や為政者のそのような発言には、驚くばかりである。

過去に米国が、原子炉級(reactor-grade)プルトニウム、即ち原子力発電所から取り出したプルトニウムを使って1962年にネバダ核実験場で核爆発実験をし、その実験状況をほぼ30年後の1994年6月27日に公表した。米国だけがそのような核爆発実験をしたと考えるより、核兵器国すべてがおそらく同様な核実験をし、米国だけが国内の情報公開法(1967年施行)に基づき、あるいは核不拡散に向けての政治的な意図から、その事実、結果を公開したと考える方がより現実的であろう。

その公表資料には、その地下核実験は成功し、威力は20キロトン以下、原子炉級プルトニウムを使った核爆発物(nuclear explosive)を製造できることを確認した、というものである。さらに、核爆発実験の15年後の1977年7月には、すでにこの事実が機密扱いから外されたと記載されている。機密にし続けるほどの重要なことではない、ということでもあろう。

1994年6月27日の公表時に行われたマスコミ関係者との質疑応答内容についても、この公表資料に記録されている。マスコミ関係者の質問に応えた米国エネルギー省関係者によれば、米国ではプルトニウム240の含有率が7%以下のものを兵器級(weapon-grade)と言い、その兵器級のプルトニウムを核兵器に使っているとのこと。原子炉級のプルトニウム(この発表文に記述はないが、プルトニウム240の含有率が20%以上のものを指しているようだ)は著しく放射能レベルが高く、設計、製造、貯蔵が困難で、軍の作業員の被曝量が増大し、遠隔操作設備など施設が大きくなること、などの理由により、原子炉級プルトニウムは「核兵器」には不向きとしている。

また、この実験に使われたプルトニウムの組成について担当者は、核不拡散の観点から応えなかったものの、実験に使われたプルトニウムは英国から供給されたとの言及があった。この核実験が行われた1962年以前に英国で運転中の原子力発電所は、マグノックス炉と呼ばれる原子炉で、燃料は天然ウラン、黒鉛を中性子の減速に使い、炭酸ガスを炉の冷却に使っていたコルダーホール原子力発電所(6万kW×4基)とチャペルクロス原子力発電所(6万kW×4基)の2発電所である。これらは、核兵器用のプルトニウムを生産しつつ、運転中に発生する熱を利用して発電も行うために建設された軍事施設(両発電所とも2003~2004年に閉鎖)である。

米国は、英国から提供されたこれらのマグノックス炉からのプルトニウムを使い、この核爆発地下実験を行ったが、その後、軽水炉から取り出したプルトニウムによる核爆発実験は行ってはいないようである。実験する必要もないということなのだろう。

現在、核兵器保有国が保有する核兵器は、核不拡散条約(NPT)で規定される核兵器保有国5カ国(米、露、中、英、仏)の総量でほぼ1万発、その他の事実上の核兵器保有国が約300発と予測されている。「核兵器を保有している」という威圧を維持するためにこれら保有国は、保有する多量の核兵器を注意深く、しかも今後も安全に保管し続けなくてはならない。当然、長期に保管するだけではなく、核物質自体や精密で複雑な装置の安全性を確保するため、定期的なメンテナンスや原材料、部品の交換などに膨大な費用と手間が必要となっていよう。

手間と費用を惜しまなければ、原子炉級プルトニウムでも核爆発を起こせる「装置」は出来るようだが、本来の核兵器にはない、冷却装置付きの厳重な放射線防護を施した仰々しい装置となってしまうだろうことは想像に難くない。しかも原子炉級プルトニウムでは、自発核分裂を起こすプルトニウム240を多量に含むために、肝心なプルトニウム239自体を劣化させるばかりでなく、勝手に自爆してしまう可能性も高いようだ。そのような仰々しい、しかも危険極まりない「装置」をわざわざ製造し、長期に保管するような国や組織は今までにはなかったし、これからもその様な「バカなことをする」国はなかろう。原子炉級プルトニウムは、発電用の燃料として再利用するしか使い道はない。否、ウラン資源の99.3%をも占める燃えないウラン238を、技術によりプルトニウムという新たに燃える燃料に転換して発電で再利用することこそ、原子力平和利用の根本的な価値である。

軽水炉からのプルトニウムで核兵器を造る事はあり得ないことの事象の一つとして、北朝鮮が自国に建設した黒鉛減速炉の運転を凍結、解体することを条件とした1994年10月の米朝の合意がある。その合意により、日本、米国、韓国による「朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)」が1995年3月に設立され、北朝鮮に100万kWの軽水炉2基の建設を開始した。しかもそれが完成するまでの間には、年間50万トンの重油を提供するというおまけ付きである。しかし、ご存知の通りの2005年2月の北朝鮮の核兵器の保有宣言などの動きを受けて、KEDOは2005年11月に、34.5%にまで進捗していた軽水炉建設を終了させた。軽水炉の使用済燃料から取り出したプルトニウムで核兵器が作れるのなら、米国はわざわざ北朝鮮に軽水炉を建設するような合意をするはずがない。

増加し続ける世界人口、開発途上国の取り残されていた経済発展、教育の充実、医療、福祉の向上を図るためには、今まで以上のエネルギーの安定供給が欠かせない。加えて、化石燃料の消費拡大に伴い顕著となってきた地球温暖化の防止、子孫に残しておきたい石油の消費削減などには、原子力発電や再生可能エネルギーの利用拡大が不可欠である。原子力発電の利用政策が、先進工業国の一部市民の好き嫌いや反原発運動、党利党略で変えられるような近視眼的なエネルギー政策であってはならない。

また、原子力発電の必要性は、エネルギー政策ばかりではない。人類の悲願である核廃絶を確実に達成するためには、ノーベル平和賞の付与などの様々な手段も含めて、最終的には核兵器解体後の核物質を何らかの方法で消滅させなくてはならない。その最も効果的な方法は、原子力発電所で燃料として消費してしまうことである。すでにロシアの核物質を米国の原子力発電所で燃料として燃やしてしまうプロジェクトも実施されている。

今後の世界的なエネルギー政策の推進、核廃絶の達成のために、現在の軽水炉の利用をさらに進めるべきである。発電炉からのプルトニウムで核兵器が出来るというような、素朴な非核論を政治的に利用するのは遺憾だし、もう止めにすべきだ。核軍縮、核廃絶の専門家や、核兵器保有国の為政者なら、すでに分かって戴いていることと思えるのだが。

(編集部)