EV社会での総合エネルギー政策は誰が考えるのか

昨年7月6日、世界各国に先駆けて、フランス政府がガソリンエンジン車、ディーゼル車の販売を2040年までに禁止する方針を発表し、イギリス政府も同月26日にはフランス政府と同様の方針を発表した。

発端は、2015年9月18日に米国環境保護庁(EPA)がドイツ・フォルクスワーゲン社(VW社)に対し、排気ガス規制を逃れる不正なソフトウェアを搭載していたとして、米国で販売されていた同社の約482,000台のディーゼル車のシステム改修を求めたことと思われる。ディーゼルエンジン搭載のフォルクスワーゲン車が「クリーン・ディーゼル」とは名ばかりで、窒素酸化物(NOx)を撒き散らしていたのだ。VW社だけではないとも思われるのだが。

従来の内燃エンジン自動車からの排気ガスはNOxばかりではなく、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2)、炭化水素(HC)、更にディーゼル車などから排出される黒煙(粒子状物質:PM)など、人体にも有害な物質が含まれている。エネルギー全体に占める輸送部門のエネルギー需要は、2013年時点で27.8%を占め、年々その割合を増している。石油消費分野に至っては、2014年の世界の部門別・石油消費で、運輸用が65%を占めている。他の部門の消費量(石油化学原料11%、産業用8%、家庭用6%、業務用2%、その他8%)に比べ圧倒的に多量である。内燃エンジン自動車が石油からエネルギーを取りだし、その副産物として炭酸ガスをはじめとする排気ガスを地球上にばらまいている。

国際エネルギー機関(IEA)の2015年の推計値(143か国)によれば、地球上で炭酸ガスの多量排出国第1位は中国28.0%、2位が米国15.5%、3位がインド6.4%であり、これら3か国で世界の炭酸ガス排出量の49.9%と半分を占めている。さらに、4位がロシア4.5%、5位が日本3.5%と続く。大気汚染で自国民の健康が懸念されていることに加え、炭酸ガス排出で1位の中国でも、2019年から新エネルギー車(NEV:電気自動車(EV)、プラグイン・ハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCV))を導入し、将来的にはEVとハイブリッド車(HV)のみの販売を表明している。

フランス、イギリス、中国のように、ガソリン車やディーゼル車の販売を規制する方針を提示する国々や地域は増え続けるだろう。大気汚染が世界で最も著しいと指摘されているインドでも、2030年からEVとHVのみを販売するとしている。環境問題先進国のノルウェーでは2030年からEVとHVのみ、オランダも2025年からEVのみの販売を発表している。また、自治体でも、バルセロナ、コペンハーゲン、バンクーバーなどで2030年までにガソリン・ディーゼル車の走行禁止を打ち出している。

この様にガソリン車、ディーゼル車の販売を禁止する「国の方針」が昨年から徐々に表明されるようになった背景には、地球温暖化の兆候の顕在化に対する懸念と共に、今までの技術、規制では大都市などでの大気汚染がなかなか解消されていないことも大きな要因となっている。また、EVの技術開発により、蓄電池の大容量化、モーターの高効率化などで、急速に1回の充電での走行距離が延びていることもEV導入、切り替えに拍車をかけている理由にもなっているのだろう。

EVには、内燃エンジンのように複雑な技術や、排気ガス規制のための環境保全技術開発の費用もいらず、その開発、生産には、従来の自動車産業のようなピラミッド型産業構造も不要と思われる。工業が高度化されていない開発途上国でも、小さな町工場でも、モーターや蓄電池が製造できれば、あるいは入手できれば、立派なEVを生産することができるだろうし、EV自体の価格の低減や、自国の、世界の環境対策に自動的に貢献できてしまうことになる。

全てのガソリン車、ディーゼル車がEVに取って代わることができるのかどうかは、これからのEV技術の発展によると思われる。少なくとも乗用車にあっては、消費者、利用者個人は、自動車業界、社会、国に任せっきりであった排気ガス対策を、EVに乗り換えるというちょっとした判断で(判断するまでもなくその様な車社会になるのかもしれないが)、いとも簡単に自国の大気汚染防止や地球温暖化防止に貢献できてしまうことになる。臭い排気ガスを出さない車を、大手を振って、誇らしく乗り回すことができるわけだ。

そのような個人の判断が、EVの利用促進ばかりではなく、今までには無かった最も効果的な抜本的な地球環境対策となることが期待できる。EV化傾向を促進するためには当然、前述の数カ国、数都市のように、内燃エンジンに対する国、自治体の先進的な規制方針が、世界中の国々、地域でも積極的に表明されることが求められる。

以上のようなEV転換への加速の必要性や期待感は、誰でも気が付くことである。

では、そのEVの燃料である電力は、どの様にして供給すべきなのか。石油、石炭、ガスなどの化石燃料による火力発電でその電力を賄うのであれば、何の解決にもならない。元の木阿弥だ。すでにガソリン車、ディーゼル車の規制方針を明らかにした前述の数カ国でも、EVへの電力供給方策についてはまだ明らかにしていない。

石油、石炭、ガスなどによる火力発電以外の発電方式は、現在、水力、原子力、太陽光、風力、地熱、波力、潮流、潮力、バイオマスなどによる可燃性再生可能エネルギーなどである。IEAが2017年11月14日に発表した世界エネルギー見通しによれば、再生可能エネルギーが供給面で占める割合は、2016年の24%から2040年には40%に拡大すると予測している。特に太陽光や風力などの再生可能エネルギー発電の増加が著しく、石炭火力の割合は逆に減少を続けるとしている。

このIEAの見通しで不安になるのが、天候に左右されやすい再生可能エネルギー発電である。電力の需要は、毎日の時間帯による消費電力の変動に加え、季節による変動にも大きく左右される。さらに電力供給面では、再生可能エネルギー電源が増加し、発電全体に占める割合が増えれば増えるほど、天候、機器故障などによる電力供給の変動幅が大きくなってしまう。

従来から、日々、年間を通しての電力需要の変動を吸収・補完するため、電力のピーク時の対応には電力網に直ぐさま接続できる水力発電を、毎日の需要の大きな変動には、数時間の起動準備が必要な火力発電が計画的に運転されてきた。需要の少ない夜間用は、ベースロードとしての原子力発電がその任を果してきた。それぞれの特長を生かした電源構成が図られ、安定した電力供給が行われてきた。

しかし、日々、年間の需要の大きな変動に加え、天候に左右されやすい再生可能エネルギー発電の割合が増えるとなると、需要面プラス供給面、両面での電力の変動が複雑に絡まり、小規模、大規模な停電の割合が増えることが懸念される。今までの電力需要の変動に適切に対応してきた火力発電、その割合を減らすことにも、電力供給の大きなリスクが伴ってしまうし、安定した電力供給を行うには、火力発電以外のミドルロード電源に何を加えなくてはならないかも今後の大きな課題である。ペーパー上で、需要と供給のバランスを取るだけでは済まされない現実の、現場の課題が、温暖化対応を進めるために山積みとなっている。

大気汚染の解消、地球温暖化防止のための方策について、エネルギー、電力の需要面、供給面での方策には、国の方針と、市民、国民のちょっとした決断が大きな成果となり得る分野もある。反面、それ故に長期的な課題を見据えて、国家、世界の総合エネルギー政策としての対応策を積み上げ、計画的に取り組まなくてはならない分野もある。再生可能エネルギーの加速的な導入にも停電などのリスクの増加も伴うが、化石燃料の燃焼を低減させていくためにはそのリスクの受容もしなくてはならないかもしれない。

原子力発電を除く水力、太陽光、風力、波力、潮流、潮力、バイオマスなど再生可能エネルギーは、全て太陽のエネルギー、即ち核融合反応によるエネルギーの直接的、間接的な恩恵である。地熱でさえ、その半分は核崩壊により発生するエネルギーである。「脱原発ありき」から始まる原発論争、党利党略の戦術ともなっている脱原発政策を唱える方々も、もう一度原子力発電を前向きに検討し直してはどうだろうか、社会全体のために。

(編集部)